執事という職には国の免許がありません。だからこそ、誰が「執事である」と言えるのかを判断する基準を、全日本執事協会が文章にして持っています。このページは認定する側の記録です。何を基準に線を引くのか、なぜ段階を三つに分けているのか、審査の席で私たちが何に丸を付け何に印を付けないのか、そして認定のあとに何を求め続けるのか。頭取の立場から、制度の骨組みをそのまま開きます。課程の内容や試験当日の様子は、アカデミー側の「執事の資格を取るには」に任せます。
基準を文章にした理由
口伝えの「執事らしさ」では認定に一貫性が出ません。協会は認定の条件を明文化し、審査員が変わっても同じ線で判断できるようにしています。
制度を作る前、執事の良し悪しはそれぞれの家の当主や先輩の感覚で語られていました。それでは家が変われば評価も変わり、雇う側は何を信じてよいか分かりません。協会が最初にしたのは、良い執事に共通する条件を書き出し、審査で確認できる形に直すことでした。書けない基準は基準ではない、というのがこの制度の出発点です。
認定しない事由も並べる
明文化には副作用もあります。条文にした途端、条文さえ満たせばよいという読み方が生まれます。そこで協会は、条文のほかに「認定しない事由」も並べて持っています。守秘に疑いがある、依頼主より自分を優先した形跡がある、といった項目は、どれだけ技能が高くても認定を止める理由になります。

なぜ段階が三つなのか
アソシエイト、プロフェッショナル、マスター。三つに分けているのは、依頼主の側から見て「任せてよい範囲」が違うからです。
段階の数を決めるとき、協会が基準にしたのは学ぶ側の都合ではなく、任せる側の都合でした。給仕と来客応対の基本ができる人。日常の家政を一人で回せる人。人を束ね、家全体を設計できる人。依頼主が執事に託す仕事はおおよそこの三つの幅に分かれるため、認定もそれに合わせて三段にしています。段の名は上から順に見栄えを競うものではなく、任せてよい範囲を表す札です。
上の段は下を含む
上の段は下の段の条件をすべて含みます。ですから審査の順序としては、マスターの候補であっても、まずアソシエイトの条件を満たしているかを確認します。基礎の型が崩れている人に、家の設計を任せることはできません。

審査の席で見ている三つのこと
審査員が記録するのは、手順の正確さ、相手への注意の向き方、そして守秘と節度の理解です。三つのうち一つでも欠ければ、その段の認定は出しません。
一つ目は手順です。茶の温度、器の扱い、卓の整え方。これは学校で学び、練習すれば身につくもので、審査の中ではいちばん判定が易しい部分です。二つ目は注意の向きです。手が正確に動いていても、視線が相手を離れていれば、その人は道具を見ていて人を見ていない。審査員はそこに印を付けます。
守秘と節度は面談で
三つ目は守秘と節度です。これは実技の中では測りにくいため、面談と、審査中に差し込む場面で確かめます。依頼主の私事を聞かれたときにどう答えるか、褒められたときにどう受けるか。技術より前にある条件ですから、ここが曖昧な候補には段を出しません。
手順の正確さ
注意の向き
守秘と節度

認定は「合格」ではなく「預かり」
認定証は到達の証ではなく、協会が名を預かる約束です。認定後も協会は、現場での振る舞いに責任を持ち続けます。
協会が認定証を渡すとき、私は「これは合格証ではありません」と伝えます。認定とは、この人が執事として現場に立つことを協会が引き受ける、という宣言です。だから認定後に不祥事があれば、それは本人だけでなく協会の判断の誤りでもある。その重さを持って、段を出しています。
現場に無関心ではいられない
この考えがあるので、協会は認定した執事の現場に無関心ではいられません。THE BUTLERの現場で見えた課題は協会に戻り、基準の見直しや学校の課程の修正につながります。認定と現場を同じ組織が持つ意味は、ここにあります。

認定のあとに求め続けること
認定は一度きりで終わりません。協会は研鑽の場を用意し、段の見直しも行います。基準は固定せず、現場に合わせて改めていきます。
認定を受けた執事には、協会が開く研鑽の場に戻ってくることを求めています。時代が変われば家の形も変わり、求められる所作も変わります。基準を改めるときは、現場の執事の声と依頼主の声を突き合わせ、条文を書き換えます。制度は生き物であり、頭取の仕事はそれを枯らさないことだと考えています。
課程の手続きは学校へ
認定制度についてのお問い合わせは、下記から受け付けています。課程の内容や受講の手続きは、学校である日本執事アカデミーへお尋ねください。

認定しない理由も書き出してある
条文だけを並べると、条文さえ満たせばよいという読み方が生まれます。だから協会は、認定を止める事由も同じ重さで持っています。
認定の条件を書き出すと、それを満たす練習が始まります。それ自体は悪いことではありませんが、条件表の隙間を通り抜ける人が出てきます。そこで協会は、条件のほかに「認定しない事由」を並べて持つことにしました。
筆頭は守秘
止める事由の筆頭は守秘です。実技の点がどれだけ高くても、審査中の雑談で前の勤め先の話を具体的に語る人には段を出しません。次が節度で、褒められたときに受け流せず、自分の手柄として語り直す傾向が見えた場合も止めます。
点数にならない項目を残す
これらは点数にならない項目です。数えられないものを制度に入れると運用が揺れるという指摘は、協会の中にもありました。それでも残しているのは、数えられる項目だけで人を認めた結果が、どういう現場を生むかを知っているからです。

審査で落ちた人に何を返すか
結果だけを返しません。どの場面で何が足りなかったかを具体的に伝え、講師にも同じ内容を返します。
審査で段が出せなかったとき、本人には理由を添えて伝えます。手順のどこで崩れたのか、視線がどの場面で相手を離れたのか、面談のどの答えが引っかかったのか。伏せたままにすれば、どこへ手を入れればよいのか分からないまま、次の席でも同じ場所で足が止まります。
講師にも同じ内容を返す
同じ内容を、その人を育てた講師にも返します。審査の日は本人より講師のほうが緊張しているものですが、落ちた原因が教え方にあることは、実際には少なくありません。個人の努力不足として処理してしまえば、次の受講生にも同じことが起きます。
二度目は短く済む
一度段が出なかった方が、時期を置いて再び受けられることもあります。どこで止まったかを互いに覚えていますから、二度目の席は短く終わります。
基準は誰のために改まるのか
執事のためではなく、依頼する側のために改めます。任せてよい範囲が変われば、段の中身も変えなければなりません。
家の形が変われば、執事に任される仕事も変わります。以前は想定していなかった機器の扱い、記録の残し方、遠方との連絡。こうしたものが現場に現れたとき、段の中身を書き換えなければ、認定は実態から離れていきます。
両側の声を突き合わせる
改めるかどうかを決めるのは、現場からの報告と依頼主からの声を突き合わせた結果です。片側だけを聞くと、執事に都合のよい基準か、依頼主に都合のよい基準のどちらかに寄ります。両方を並べて初めて、どこを直すべきかが見えます。
理由のない改定は守られない
条文を改めたときは、なぜそう直したのかを必ず添えます。理由の書かれていない書き換えは、何年か経つと誰にも守れなくなります。制度は生き物であり、頭取の仕事はそれを枯らさないことだと考えています。

よくあるご質問
認定は誰が出すのですか。
全日本執事協会です。国家資格ではなく、協会が定めた基準に基づく民間の認定で、審査には実技と面談が含まれます。
段階はいくつありますか。
アソシエイト、プロフェッショナル、マスターの三段です。依頼主から見て任せてよい範囲の違いで分けており、上の段は下の段の条件をすべて含みます。
認定後に更新はありますか。
協会が研鑽の場を用意し、段の見直しも行います。基準そのものも現場の声に合わせて改めていきます。
技能が高ければ認定されますか。
されません。守秘に疑いがある、褒められたときに受け流せないなど、点数にならない事由で段を止めることがあります。
落ちた理由は教えてもらえますか。
教えます。どの場面で何が足りなかったかを具体的にお伝えし、同じ内容を育てた講師にも返します。
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