静かに控える執事の立ち居振る舞い

PRINCIPLES

全日本執事協会の理念

全日本執事協会の理念とは、守秘・規律・品格の三つを執事の条件として定め、それを教育と認定で担保することです。抽象的な心構えではなく、現場での具体的な行動として定義しています。ここでは三つの柱が何を意味し、会員にどう徹底されているのかをご説明します。

守秘とは何を守ることか

執事が見聞きしたことを一切外へ持ち出さないという原則です。家庭の内側に入る職業であるため、この一点が崩れれば職能そのものが成り立ちません。

執事は住まいに入り、家族の生活を目にします。誰が来訪したか、何を話していたか、どのような事情があるか。これらは業務上知り得た情報であり、外部に出さないことが前提です。話題として持ち出すことも含めて禁じています。

技能より前にある条件

守秘は信頼の前提であり、技能以前の条件です。協会が最初に徹底するのはここです。

調度の前で書類を確かめ合う二人の執事

規律とは何を指すのか

決めた手順を守ることです。個人の裁量に頼りすぎる現場は、担い手が変わったときに質が落ちます。

手順を定めるのは自由を奪うためではなく、判断の負荷を減らすためです。あらかじめ決めてあれば、当日は相手を見ることに集中できます。逆に、その場の機転だけに頼る現場は、うまくいく日といかない日の差が大きくなります。

目的が守られるなら手順は変える

同時に、手順は目的のためにあります。目的が守られるなら手順は変えてよい。この順序を教えるところまでが規律の教育です。

広間で向かい合い、手袋のまま話す執事二人

品格とは態度のことか

言葉づかいや態度だけではありません。相手を立て、自分を前に出さないという判断の積み重ねを品格と定義しています。

背筋が伸びていることや丁寧な言葉づかいは、品格の表れの一部にすぎません。実際に問われるのは、称賛を受けにくい場面でどう振る舞うかです。自分の存在感を残す動きと、場を整える動き。後者を選び続けられるかどうかが品格です。

態度だけでは見抜かれる

この定義にしているのは、態度だけを整えても中身が伴わなければ見抜かれるからです。

去り際に出る

品格を測る場面として、協会が重く見ているのは去り際です。務めを終えて帰る執事が、その日の出来事をどう語るか。うまくいった話を先にする人と、心残りを先に言う人がいます。後者のほうが、次の現場で伸びます。

守秘

見聞きしたことを外へ持ち出さない。家の中で知ったことを、家の中でも口にしない。技能より前にある条件です。

規律

決めた手順を守る。判断の負荷を減らすための決まりで、目的が守られるなら手順のほうを変えます。

品格

相手を立て、自分を前に出さない。称賛を受けにくい場面でどう振る舞うかで測ります。
ご主人さまの好みを帳面に記す執事

理念はどう徹底されているのか

教育の初期段階で明示し、認定審査の評価項目に含め、認定後も継続研鑽の中で確認します。掲げるだけでは徹底されません。

理念を文章にして掲示しても、それだけでは現場は変わりません。協会では、学びの初期段階でこの三つを明示し、実技審査でも技術と併せて姿勢を見ます。認定は到達点ではなく、その後も研鑽が続く前提で制度を組んでいます。

審査でも姿勢を見る

審査の考え方については、認定制度のページで詳しくお伝えしています。

初日に言う理由

理念を初期段階で明示するのは、あとから伝えると建前に聞こえるからです。最初の日に、これができない人は続かないと率直に申し上げます。厳しく響きますが、あとで分かるより早いほうがよい。

帽子と帆船模型の脇で書き物を確かめる執事

なぜ基準を明文化するのか

誰に頼んでも一定以上である状態をつくるためです。基準がなければ質は個人差に委ねられ、依頼する側は判断できません。

国家資格のない職業では、何をもって執事と呼ぶのかが曖昧になりがちです。基準を明文化し、それに照らして認定することで、依頼する側は判断材料を得られます。これは執事を守る仕組みでもあります。

協会も測られる立場になる

基準を明示することは、同時に協会自身が評価される立場に立つことでもあります。曖昧にしておいたほうが楽ですが、それでは職業として残りません。

指摘を受ける窓口を開けておく

基準を公開している以上、協会自身も外から測られます。条文と実際の現場が食い違っていれば、それは指摘されるべきことです。指摘を受ける窓口を開けておくことまで含めて、明文化だと考えています。

シルクハットと帆船模型を前に打ち合わせる執事

三つの柱はどこから来たのか

机の上で考えた言葉ではありません。現場で起きた具体的な失敗を分類していった結果、三つに収まったものです。

守秘、規律、品格という三語は、はじめから掲げていたものではありません。長い年月のあいだに現場で起きた困りごとを書き溜め、それを分類していったところ、原因がこの三つに収まることが分かりました。ですから条文は理想から降りてきた言葉ではなく、失敗から上がってきた言葉です。

原因の多くは技能ではない

分類のときに気づいたのは、技能の不足が原因だった例が意外に少ないことでした。多くは、話してはいけないことを話した、決めた手順を飛ばした、自分を前に出した、のいずれかです。技能はあとから伸ばせますが、この三つは最初に定めておかないと、現場に出てから直すのが難しい。

三つに絞った理由

三つ以上に増やさなかったのは、覚えられない条文は守られないからです。細かい規則は別に定めてありますが、柱は三本に絞っています。

甲冑の脇に活けられた赤い薔薇

理念が現場で試される瞬間

理念が問われるのは、板挟みになったときです。三つの柱が互いにぶつかる場面を、あらかじめ想定しています。

三つの柱は、いつも同じ方を向いているわけではありません。たとえば手順どおりに動けば守秘が破れる場面があります。来客の名を大きな声で取り次ぐ決まりがあったとして、その来客が知られたくない立場の方であったら。このとき執事は手順を外し、守秘を取ります。

順位を条文に書く

規律より守秘が上、守秘より依頼主の安全が上。この順位は条文に書いてあります。順位を決めておかないと、迷った執事はその場の空気で選んでしまい、家ごとに判断が変わってしまいます。

品格が最後にある理由

品格が最後に置かれているのは、軽いからではありません。守秘と規律が守られたうえで初めて、自分を引く余裕が生まれるからです。余裕のない現場に品格を求めても、それは無理な注文です。

鏡に映る、山高帽をかぶった執事

理念を守れなかったときどうするか

起きたことを記録し、原因を条文の側で探します。個人の反省で終わらせると、同じことが別の執事に起きます。

理念に反する出来事が起きたとき、協会はまず本人から事情を聞きます。ただし、そこで終わりにはしません。同じ状況に置かれた別の執事なら避けられたのかを考え、避けられないと判断すれば、原因は条文か教え方の側にあります。

書式を直すほうが確実

過去には、記録の書式そのものを作り直したことがあります。ご家族の私事を書く欄が広すぎたために、書かなくてよいことまで書かれていたのです。書式を狭めたら、その種の記録は止まりました。人を責めるより、書式を直すほうが確実です。

認定を止めることもある

一方で、認定を止めた例もあります。守秘に疑いのある振る舞いが繰り返された場合です。理由は本人にお伝えし、もう一度挑んでいただく道筋も併せてお示しします。段を出さないことは処分ではなく、上がるための途中の一手続きです。

よくあるご質問

協会の理念は何ですか。

守秘・規律・品格の三つを執事の条件として定めています。心構えではなく、現場での具体的な行動として定義し、教育と認定で担保しています。

守秘義務はどの範囲までですか。

業務上知り得たことは一切外部へ出しません。誰が来訪したか、どのような事情があるかを話題として持ち出すことも含めて禁じています。

理念はどのように守らせていますか。

学びの初期段階で明示し、実技審査の評価に含め、認定後も継続研鑽の中で確認します。掲示するだけでは徹底されないと考えています。

三つの柱が互いにぶつかったらどうしますか。

順位が条文に書いてあります。規律より守秘が上、守秘より依頼主の安全が上です。順位を決めておかないと、家ごとに判断が変わってしまいます。

理念に反することが起きた場合は。

本人から事情を聞いたうえで、原因を条文や教え方の側に探します。過去には記録の書式そのものを作り直したこともあります。

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