執事の質は、選ぶ基準と育てる過程で決まります。技能は訓練で伸ばせますが、相手を見る習慣は短期間では変わりません。ここでは、THE BUTLERにおいて何を基準に人を選び、現場に立つまでにどのような過程を経るのかを、採用と教育に関わる立場からお伝えします。
選抜で最初に見るものは何か
観察の習慣です。技能や経歴より先に、相手の状態に気づけるかどうかを見ています。ここは訓練で埋めにくい部分だからです。
面談では、質問への答えの内容だけでなく、話の間合いや相手への配り方を見ています。用意した回答は準備すればできますが、その場の反応は準備できません。
経歴が華やかであることは重視していません。他の職業を経てきた方が持つ経験は、現場の判断力としてそのまま生きます。
面談は二度、時刻を変えて
面談は一度で終わりにしません。場所と時刻を変えて二度お会いします。朝の面談では落ち着いていた方が、夕方の慌ただしい時間帯では別の顔を見せることがあるからです。人柄を測るのではなく、疲れているときにどう振る舞うかを見ています。

技能より先に資質を見る理由
技能は反復で身につきますが、目立たないでいられるかどうかは適性に近いためです。ここが合わないと長く続きません。
執事の仕事は、うまくいくほど存在が意識されなくなります。称賛を受けにくい構造であり、承認を必要とする働き方とは相性がよくありません。この点を面談で率直に伝え、納得したうえで進んでいただきます。
向き不向きを早い段階で共有することは、本人のためでもあります。合わないまま現場に出るのは、双方にとって損失です。
こちらが答える側に回る
採用の場でこちらが答える側に回ることもあります。休みは取れるのか、家庭と両立できるのか、何年で段が上がるのか。これらに曖昧な返事しかできない組織に、長く勤めてくれる人は来ません。聞かれた数字はその場で答えるようにしています。

育成はどの順序で進むのか
観察と記録の習慣づけ、所作の基礎、実技の反復、現場への同行、そして単独担当という順です。順序を飛ばしません。
最初に身につけるのは、覚えて書き留める習慣です。次に立ち居振る舞いと道具の扱い。そのうえで現場に同行し、判断の仕方を見て学びます。単独で担当するのはその後です。
この順序を飛ばすと、技術はあるのに場を読めない状態になります。逆に順序どおり進めば、伸び方は人によって差があっても最終的な水準は揃います。
期間は人によって違う
育成にかかる期間は人によって差があります。半年で単独を任せられる方もいれば、二年かけて段を上げる方もいます。急がせないのは、早く出した執事が最初の一年で辞めてしまう例を何度も見てきたからです。順序を守れば、最終的な水準はほとんど揃います。
観察と記録
所作と道具
同行から単独へ

基準を満たしているかはどう確認するのか
協会の認定審査で確認します。実技を伴う審査であり、技能と姿勢の両方を見たうえで段階的に認定されます。
育てる側と認める側が同じ基準を共有しているため、育成の到達点が曖昧になりません。認定は到達点ではなく、その後の研鑽を前提とした位置づけです。
認定の段階と審査の考え方は、協会の認定制度のページで詳しくお伝えしています。
緊張しているのは講師のほう
審査の日は、本人より周囲のほうが緊張しています。育てた講師が廊下で待っているからです。落ちた場合、講師にも何が足りなかったかを伝えます。育て方の問題であることが、実際には少なくありません。

人を選ぶ基準が、そのままサービスの質になる
手配だけを行えば、質は担い手任せになります。選ぶ段階から関わることが、質を保証する唯一の方法だと考えています。
誰が来ても一定以上であるという状態は、選抜と育成と認定が一続きでなければつくれません。どこか一つを外部に委ねると、そこで基準が途切れます。
執事名簿を公開しているのは、選んでいただくためであると同時に、選ばれる緊張感を保つためでもあります。
名簿公開の不都合
名簿を公開することには、私どもにとって都合の悪い面もあります。指名の偏りが数字として見えてしまうからです。それでも続けているのは、選べない状態のまま執事を迎えるほうが、依頼主にとってよほど不安だと考えているためです。

研修では何を繰り返すのか
所作そのものより、待つ訓練に時間を割きます。動ける人より、動かずにいられる人のほうが育てにくいからです。
研修で最も長く費やすのは、何もしない時間の過ごし方です。手が空いたときに用事を探しに行ってしまう人は多いのですが、執事の一日の大半は控えていることで成り立ちます。姿勢を崩さず、視線を落とさず、呼ばれたら一歩で動ける。この状態を保つのは、器を運ぶよりずっと難しいものです。
形より先に理由
所作の稽古は、正しい形を教えてから理由を添える順で進めます。扉をなぜ手前に引くのか、器をなぜ右から置くのか。理由を知らないまま覚えた形は、初めての部屋で必ず崩れます。
本物の道具で覚える
稽古には本物の道具を使います。銀の重さ、磁器の冷たさ、布の滑り。手が覚えることは、写真や映像では代わりになりません。

現場に出たあとも見続けるのか
見続けます。認定は出発点で、現場に出てからのほうが長い。記録と面談を通じて、崩れを早く見つけます。
現場に出た執事は、その日の出来事を協会の様式で書き留めます。何が起きたかだけでなく、迷った場面と、そのときどう判断したかを残します。書かれたものは私どもが読み、判断が基準から外れていれば、次の面談で本人と確かめます。
崩れは疲れから始まる
崩れは技能からではなく、疲れから始まります。長く同じ家に伺っていると、その家の空気に馴染みすぎて、間合いが近くなることがあります。記録の文体が変わってきたときは、たいていその兆候です。
間隔を調整するのも仕事
依頼の間隔を調整したり、別の現場を挟んだりするのも私どもの仕事です。務めが続かなくなれば、そのお宅との付き合いもそこで切れてしまいます。
記録
面談
間隔
選ばれなかった人にはどう伝えるのか
理由を添えて伝えます。伏せたままにすると、本人は何を直せばよいか分からず、次の機会も同じところで止まります。
選考でお断りすることはあります。そのとき、結果だけをお知らせして終わりにはしません。どの場面で何が足りないと判断したのかを具体的に伝えます。相手を見る間合いなのか、記録の粒度なのか、あるいは執事という働き方との相性なのか。
相性だと伝えることもある
相性の問題だとお伝えすることもあります。称賛を受けにくい仕事だと率直に申し上げると、ご自分から別の道を選ばれる方もいます。私どもはそれを失敗とは考えていません。合わない場所で数年を費やすほうが、双方にとって損失が大きいからです。
二度目は話が早い
一度お断りした方が、時期を置いて再び来られることもあります。前回どこで止まったかを双方が覚えているので、二度目は話が早く進みます。
よくあるご質問
執事はどのように選ばれるのですか。
技能や経歴より先に、相手の状態に気づける観察の習慣を見ています。訓練で埋めにくい部分だからです。
未経験でも執事になれますか。
なれます。他の職業を経てきた方の経験は現場の判断力として生きます。育成は観察と記録の習慣づけから順序立てて進みます。
執事の質はどう保証されていますか。
協会の認定審査で確認します。育てる側と認める側が同じ基準を共有しているため、育成の到達点が曖昧になりません。
研修で一番時間をかけるのは何ですか。
待つ訓練です。手が空いたときに動かずにいられることが、器を運ぶことより難しいためです。
選ばれなかった場合、理由は分かりますか。
分かります。どの場面で何が足りないと判断したのかを具体的にお伝えします。時期を置いて再び受けられる方もいます。
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